自閉症の息子と共に

自閉症の子どもを育てた父のエッセイ

ひとりごと

 私の息子はよく、ひとりごとを云う。普通ひとりごとは、何かを考えながらボソボソと云うものである。しかし、この子の場合は、かなりはっきりとした声で発する。そのため、とつぜん何かを話始めると、それを聞いた周りの人は驚いてしまう。自分の気持ちは、言葉で言い表せないのに、不必要なときに自分の意志とは別に、色々な記憶が映像として彼の脳裏に浮かび、ひとりごととして言葉に出てしまうようだ。

 ある日、保育園の先生に
 「k君、お姉さんだけでしたよね?このあいだ『にいさん』と云ってましたけど」と、園内での様子を伝えていただいた。この『にいさん』という言葉は、アニメ「鋼の錬金術師」の中で、弟のアルフォンスが兄、エドワードを呼ぶときのセリフである。先生にそのように説明して納得していただけた。

 また、同じアニメの中、エドワードのセリフで「クソおやじ」というのがある。この子はこのセリフを気に入ってしまったのか、ニヤニヤしながら「ク・ソ・オ・ヤ・ジ」と、この言葉を発することがある。これを聞いた次女が驚いて、「そんなこと、パパの前で絶対言ってはダメだよ!」と強く注意していた。

 息子がこの言葉を発するとき、その場面を思い出しながらニヤニヤと、ひとりごとを云うので気にならない。それよりも、この「クソおやじ」という意味を理解しているんだと、私は感心してしまうのである。