自閉症の息子と共に

自閉症の子どもを育てた父のエッセイ

会釈をした息子

 息子が中学一年生のときだった。秋に行われた運動会の昼休み。私は妻といっしょに校庭の日陰にピクニックシートを広げお弁当を出して、息子が来るのを待っていた。

 そこに小学校時代の校長先生がいらした。中学へ進学した生徒たちに会うため運動会へ来てくださったのだ。久しぶりに会う校長先生は、私たちがたんぽぽ学級だった息子の両親であることにすぐに気づいてくださり、しばらくお話をしていた。

 そこに息子がやって来たので、私は息子に「Kちゃん。校長先生だよ」と伝えた。すると息子は先生の顔をみて、軽く会釈をした。私は息子のそんな姿を見るのは初めてだった。こんにちは!と言葉を発することはできないが、ちゃんと敬意を示し校長先生に会釈をしてくれた。嬉しかった。私が息子の成長を実感した瞬間であった。いまでもその時の光景を鮮明に思い出すことができる大切な記憶である。